孫正義はやはりすごい

ソフトバンクが、ホームアンテナ(小型基地局)の無償レンタルを始めるそうだ。
決して安くはないであろう、3G機種の小型基地局を無償で配布するということで、一見すると常識外れなようだが、実に理にかなっている。


携帯電話の勝負のポイントの一つは、「つながりやすさ」だ。
WINがFOMAよりも先んじることができた一つの要因は、FOMAが独自の網を張らなければならなかったのに対し、AUはWINに移行する際に、前世代の網を使える方式を選択したことにより、初めからつながるエリアが広かったことが挙げられる。
これにより、「FOMAはつながりにくいが、WINはつながる」という評判が確立した。


で、ソフトバンクの3Gだが、アンテナ本数がドコモ、AUに比べてかなり少ない。
となると、ここを早急に何とかしなければ勝負にならないことになる。


ここで孫正義が掲げたのは、
「現在25,000の基地局だが、あと半年で46,000にする」
という常識外れの目標。


僕もこの目標を初めて聞いた時には、「それはさすがに無理だろう」と思っていた。


しかし、今回の無償レンタルプランを聞いていろいろな意味でやはりさすがだ、と思った。



① エモーショナルマーケティング的意味でのすごさ


同じ内容を言うにしても、
「大幅にアンテナを増やしますので、つながりにくい地域の方はソフトバンクまでご連絡ください。ホームアンテナを設置させていただきます」
と言っていたらどうだったか?

かなり印象は薄かっただろう。


これを、今回のように、
「本来高価なアンテナを、無償で提供します。しかも、工事費までソフトバンク持ち」
と言うと、これは大変太っ腹なことをやっているような印象になる。


しかし、実態を良く考えてみると、
・設置場所をソフトバンクが探すのではなく、ユーザーに探させている
・設置場所の確保、提供もユーザーが行う
という施策なのだ。


通常であれば、
・設置場所をソフトバンクの社員が探す
・設置場所の確保もソフトバンクが行う
・当然、アンテナの費用はソフトバンク持ち
ということである。


つまり、
・本来ソフトバンクがやらねばならない仕事を、ユーザーに、無償で、やらせることができる
・しかも、ユーザーは喜んでその仕事を行う
という一石二鳥どころか、何鳥分もの価値がある施策なのである。


伝え方一つで、これだけの差が生まれる。
感情を意識したメッセージのパワーを生かした好例だ。



② 目標設定のすごさ


本来目標というものは、「得たい結果に到達する」ために設定するものだ。
しかし、「そうはいってもそれは現実的ではないだろう」という思いが胸をかすめて、これまでの常識に沿った”現実的”な目標を設定してしまいがちだ。


だが、孫正義は愚直なまでに「得たい結果に到達する」ことにこだわっている。

ADSLを始めたときも、「日本のブロードバンド市場でNo.1になる」という結果を得るために当時とすれば常識はずれな価格設定をし、当時としては常識はずれな販売方法を取った。


今回もそれは変わっていない。
「3G携帯で先行2社と同等のつながりやすさを確保する」
という目標を設定した。
しかも、半年という期間で、である。
当然僕も含めて業界の人間としては、常識はずれだと思ってしまう。


ところが、明確な目標を定め、実現することを決意してしまえば、実現のためのアイディアが生まれるものなのだ。


常識はずれなイノベーションは、常識はずれな目標設定からしか生まれない。

実際のところは知らないが、おそらく、「無償でホームアンテナを配る」という方法を思いついたから、「半年で21,000本のアンテナを打ちます」と言い出したのではないと思う。
「絶対に半年で21,000本のアンテナを立てねばならない!そのための方法はないか」
と考えた結果、今回のアイディアが生まれたのだろうと思う。



やはり、孫正義はすごい。

僕も、高い目標を持って、そこから生まれる創造的イノベーションを起こしていく人生を生きて行こう。